【想い】










君への想いを断ち切ることができたら、どんなに楽なのに、そう思う。
だけど、気付いてしまったものに止まれっていうのも難しい。
それでも、俺は… 君に幸せでいて欲しい 〜君の幸せ(想い)〜 最初に、このことに気付いたのっていつだったっけ。



ああ、そうだ。
相馬と一緒に新選組へ入るって決めて、荷物をまとめているとき。
相馬は、さっさと屯所へ荷造りを終えて荷車を用意しに行ってて、俺はまだ、片づけしてた。 その時、倫ちゃんが顔を出したんだっけ。


「肇さん、野村さん、荷造り終わられ…あれ?肇さんは?」
「ああ、あいつなら荷車の手配に行ったよ。何か用事だった?」
「そうじゃないけど…最後にお別れしたいなって思ったから…」

倫ちゃんは、外に目をやりながら小さくつぶやく。


「相馬がいなくなったら、寂しい?」
俺は大した他意なんてなく、ちょっと茶化すつもりだった。
「そうですね。寂しくなっちゃいますね。」
その時、倫ちゃんは相馬が好きなんだって、そう思った。
それと同時に、俺の中にそれを茶化せない何かがあることもわかってしまった。


親友に対する、嫉妬。


それが何を意味するのか、わからないほど俺は子供じゃない。
そりゃあ、今までももう少し育ったらきっと美人になるよなぁ、とか考えたりはしてたけど、それとは違う。
だけど、それを伝えるほどしっかりとわかっている訳じゃないから。


「そっかぁ、俺のこともそれくらい寂しがってくれる?」
「え?もちろん、野村さんがいなくなるのだって同じ、です。」
びっくりしたように、目を丸くする彼女。
だけど、あんなに慌てて。
それじゃあ、あいつが特別なのわかっちゃうよ。


「そっか、よかった。俺はせいせいするとか言われるかと思った。」
「そんな…」

「おい野村、用意できたぞ」
「あ、肇さん。」
「君か。どうしたんだ?」
相馬が来ると、ほっとしたように倫ちゃんはこちらを向いて話し始める。
「せっかくですし、お見送りしようと思って。」
「そう、か。すまないな。」
「いいえ、ちゃんとお別れしたかったんです。」
倫ちゃんも手伝って、荷物を屯所に運び入れて。
俺と相馬は、新選組の一員として京で過ごすことになった。
同じ京にいても、彼女にはたまに会える程度だったけど…。




しばらく経ち、情勢が変わろうとする頃、彼女も共に闘いたいと新選組に入隊した。
多分、好きな人と一緒にいたいから。
俺に勝ち目なんてないよな。
相手は、あの"相馬"だし。
あいつなら、きっと君を幸せにしてくれる。
俺は、そう思った。

ただ、あいつの隣で笑う彼女を見るのは…ちょっとだけ辛かったけど。





それから、本当にいろんな事に出くわして。
新選組が実質違う形になっていって。
幹部の人たちがどんどんいなくなって。
そして近藤さんが、新政府の奴らに斬首された。
俺と相馬は近藤さんと共に獄舎にいたけど、近藤さんの嘆願で赦免されて。
正直どうしたらいいのかわからなかったけど、でもその意思を受け継ぐことでしか近藤さんに報いることができないって思った。
だから相馬と二人、北へ向かい新選組に合流した。




「肇さん…野村さん…ご無事だったんですね。」
俺たちを見るなり、倫ちゃんが駆け寄ってくる。
「ああ、近藤さんが俺たちを…」
「そう、ですか…私にとっては近藤さんに感謝しないと、ですね。こうやってもう一度会えたのですから。」
倫ちゃんは顔を上げると、
「土方さん達に報告してあげてください。今、奥にいらっしゃいますから。」
微笑んで俺たちを案内する。


それから、副長に顛末と俺たちがどうやってここまでたどり着いたかを説明して、今日は休むことになって。
でも、俺は寝付けなくて宿舎の縁側で星を見てた。


「野村…さん?」


振り返ると、そこには夜着に一枚羽織っただけの倫ちゃんが立っていた。
「あれ?どうしたんだい?倫ちゃんも寝付けないの?」
「も、っていうことは野村さんも、ですか?」
「ああ、やっと戻ってこれたんだなぁって思ったらさ、どうにも寝付けなくって」

そうですかと笑って、隣に座る君。
想いを寄せている身としては、かなりおいしくも辛い状況で。
そのまま黙って二人でしばらく星空を見ていた。
だけど、触れちゃ…だめだ。
抑えが、きかなくなるから。

「まぁ、明日からは特別扱いもなし、って言われたし、俺そろそろ…」
そう言いかけたとき、とんっと軽くあたって、倫ちゃんの頭が肩に寄りかかる。
「倫ちゃん?」



「…あったかい、ですね。よかった…無事で。」



その言葉が俺の最後の理性をかき消した。
彼女の頭を肩から持ち上げると向き直ってそのまま抱きしめる。
「野村…さん!?」
「ごめん、もう俺限界みたい。倫ちゃんが誰を思っているのか何となくわかるけど、それでも俺は倫ちゃんが好きなんだ。だけど…」
そこまで言いかけると、彼女は俺の言葉を遮るように、
「私が心配していたのは、野村さん、あなたです。」
「え???だって、君は相馬のことが…」
「…誰からお聞きになったんですか。」
「だって、俺に対する態度と違うし…」
そう言うと、彼女は俺の腕の中から少し顔を上げるように、



「それは…野村さんと二人っきりで話すのが恥ずかしかったからです!」


その顔は月の光で見ても桜色に染まっていて。
そのことが彼女に精一杯の告白をさせてしまったことを物語っていた。
「えっと、そう…なんだ…」
まさか、そちらに傾くと思っていなかったから、急に俺も恥ずかしくなって。
「そう、です。野村さんにもっと会いたくて、私は新選組に来たんです。だから…」
その潤んだ瞳に勝てるわけない。


俺は、少し腕をゆるめると彼女の額にそっと口づけた。
「俺、倫ちゃんが幸せになるんなら、それでもいいかなって思ってた。だけど、俺が幸せにしてもいいんだよね。」
「もちろん、です。」
俺の大事な人は、頬を染めたまま嬉しそうに微笑む。


その笑顔を守るためなら、俺は…







〜ひとこと〜




野村に執心な私の為に、沙月さんが書いて下さいました。
このお話を頂いた頃、ちょうど自分の野村×志月原稿「恋詩」の前編を
執筆中だったので、原稿があがるまでは読まずにいたのですが……
読ませて頂いてびっくり!
私が考えていた花柳野村の姿まさにそのものだったのです。
親友相馬の為に、あえて身を引くその姿。
素敵な野村×志月を読ませて頂きましたvv
沙月さん、有難うございましたvv

(2008・11・1UP)